いずれ電気代はまた上がる可能性

家計支援のため2023年1月から続けられてきた電気・ガス代の補助金制度が、今月の使用分をもって終了する。最近は電気代がかなり落ち着いているが、将来火力発電の燃料となる天然ガス価格が上昇すれば電気代もまた上昇する可能性がある。

天然ガスが22年に一時10ドル

　世界的なインフレ傾向のため、2022年春頃から日本でも物価の上昇が始まった。その中でも特にガソリン代や電気・ガス代は高騰の影響が広く何らかの支援策がないと多くの家計が苦しくなるため、政府は補助金政策を開始した。

　電気・ガス代の補助金は2023年1月から開始し、1年あまり続けられてきたが今年5月の使用分をもって終了。6月使用分から消費者は本来の料金を支払うことになる。政府が終了を発表できたのは、電気・ガス代の高騰がかなり落ち着いてきたためだ。

　そもそも電気代はなぜ高騰したのか？2022年春頃から日本国内の物価全般が上がってきたが、電気代の高騰は2022年後半に円安と天然ガス高が進行したことが大きい。2022年の福島第一原発事故以降日本はほぼ全ての原発を停止し、火力発電への依存度が高まった。

　そして火力発電の燃料となるのは主にLNG（液化天然ガス）で、その価格は海外の天然ガス価格に大きく依存する。NY市場の天然ガス価格は、パンデミック開始直後の2020年夏には100万BTU＝2ドル付近まで下落。

　しかし各国の膨大な緩和を受けて2020年後半から21年にかけて天然ガスを含めた先物市場が上昇。さらに2022年2月にロシアとウクライナの紛争が始まると天然ガス供給懸念が増大し、この年の夏には2008年以来14年ぶりとなる10ドルをつけた。

　このため火力発電のコストが高騰して国内の主要電力会社が値上げを検討せざるを得なくなり、2022年後半から23年前半にかけ地域電力10社のうち7社が基本的な料金である規制料金の値上げを申請した。

　2023年1月からの補助金開始にはこのような背景があった。ところが2023年になって天然ガス価格は暴落し、その後2024年春までの1年あまりの間、2ドル前後の安値で推移している。

　だが天然ガスの安値がいつまでも続くとは限らない。天然ガス価格は定期的に高騰している。2000～10年の10年間には、4回ほど10ドルを超えて高騰したことがあった。その後2010～20年の10年間はそのような高騰がない幸運な10年間だったが、2022年にまた10ドルをつけた。

　今後何らかの材料があれば、また10ドル付近まで上がることもあるだろう。2014年になってから2ドル未満で数ヶ月推移してきたが、これはかなり異例の安値だ。

　2ドル未満の水準に長期間留まっていた例はあまりない。2020年の春から夏にかけて数ヶ月間留まっていたのだが、これはパンデミック開始による需要激減という特殊な事情があった。また1990年代は先物全般が安い時代で天然ガスも2ドル付近の非常に低い水準に長期間留まっていた。だが当時とは物価水準がすでにかなり違い、当時の2ドルは現在の約4ドルの価値になる。

　こう考えると現在の天然ガス価格は異例の安値であり、将来的に上昇する可能性は高い。そして天然ガス価格が上がればまた電気代も上がり、円安が是正されていない限り政府はまた補助金を出す必要に迫られる。